事業承継において最も注目される制度のひとつが 事業承継税制 です。
一定の要件を満たせば、後継者への株式承継にかかる相続税・贈与税の納税が猶予または免除される、非常に強力な制度です。
しかし、この制度は「使えば必ず得をする」わけではありません。
制度の仕組みやリスクを理解せずに利用すると、かえって後継者や会社を縛る結果になることもあります。
CFIOでは、事業承継税制を「使うか・使わないか」の二択ではなく、会社の未来戦略と統合して設計することを重視しています。
1. 事業承継税制の基本
(1) 納税猶予制度
- 相続や贈与で後継者が株式を取得した場合、税額の100%(相続税・贈与税)が猶予される
- 一定の要件を満たせば、最終的に免除される
(2) 適用対象
- 中小企業の株式(大会社や資産管理会社は対象外の場合あり)
- 承継計画を都道府県に提出していることが条件
(3) 猶予の仕組み
納税が猶予される代わりに、後継者と会社は継続要件を満たし続けなければならない。
2. 制度活用のメリット
- 相続税・贈与税の負担を大幅軽減
莫大な税負担を回避でき、会社を潰さずに済む。 - 株式を後継者に集中できる
株式を分散させず、経営権を安定化できる。 - 承継準備の後押しになる
承継計画書を提出することで、後継者育成や計画づくりを早めに進めるきっかけとなる。
3. 制度利用のリスク・注意点
(1) 継続要件の縛り
- 雇用の8割維持要件(緩和されつつあるが要注意)
- 後継者が代表を続けなければならない
- 株式を譲渡・売却できない
(2) 経営環境の変化に対応できない
- 将来的にM&Aやグループ再編を検討したい場合、制約がネックになる
- 制度を利用したことで「自由な経営戦略」が阻害されることもある
(3) 途中で要件を満たさなくなった場合
- 猶予されていた税金が一括課税されるリスク
- 資金繰りに大打撃を与える可能性
4. CFIO流・事業承継税制の正しい活用法
(1) 制度は「最後の手段」と位置づける
まずは資産管理会社、持株会社、生命保険などのスキームで解決できないかを検討。
それでも税負担が重すぎる場合に税制を活用する。
(2) 10年計画の中で活用を判断
後継者教育・組織承継・資産承継と並行して、税制利用の是非を検討する。
(3) 定期的にモニタリング
制度を使った後も、毎年「要件を満たしているか」を点検。
経営計画やM&A戦略と矛盾がないかを確認する。
5. ケーススタディ①:制度利用で成功したY社
Y社(年商20億円)は、株式評価額が高額で、相続税が数億円にのぼる見込みでした。
事業承継税制を活用し、後継者に株式を一括承継。
- 猶予制度を使ったことで納税資金の心配がなくなった
- 後継者は株式を集中保有し、経営権を安定化
- 承継後も事業は成長を続け、税務要件をクリア
「税制がなければ会社を守れなかった」という典型的な成功例です。
6. ケーススタディ②:制度利用で失敗したZ社
Z社(年商12億円)は、事業承継税制を利用して株式を後継者に移しました。
しかし承継後、事業環境が悪化し、雇用を維持できずに制度要件を満たせなくなりました。
結果:
- 猶予されていた相続税が一括課税
- 数億円の資金負担が発生
- 経営危機に追い込まれる
「制度ありき」で承継を進めた典型的な失敗例です。
まとめ
事業承継税制は強力な制度ですが、正しく理解し、リスクを管理して使うことが前提です。
- 税負担を大幅に軽減できるが、要件の縛りが大きい
- 制度利用の可否は「10年計画」の中で判断する
- 制度を使わない承継スキーム(資産管理会社・持株会社・保険)と比較して最適化する
- 利用後も定期的なモニタリングが必須
CFIOのSTEP5では、事業承継税制を「魔法の杖」としてではなく、総合承継戦略の中の一つの選択肢として位置づけ、リスクを管理しながら最適な承継を実現します。
