コラム

STEP5-9 事業承継税制の正しい活用法とリスク管理

事業承継・グループ経営

事業承継において最も注目される制度のひとつが 事業承継税制 です。
一定の要件を満たせば、後継者への株式承継にかかる相続税・贈与税の納税が猶予または免除される、非常に強力な制度です。

しかし、この制度は「使えば必ず得をする」わけではありません。
制度の仕組みやリスクを理解せずに利用すると、かえって後継者や会社を縛る結果になることもあります。

CFIOでは、事業承継税制を「使うか・使わないか」の二択ではなく、会社の未来戦略と統合して設計することを重視しています。

1. 事業承継税制の基本

(1) 納税猶予制度

  • 相続や贈与で後継者が株式を取得した場合、税額の100%(相続税・贈与税)が猶予される
  • 一定の要件を満たせば、最終的に免除される

(2) 適用対象

  • 中小企業の株式(大会社や資産管理会社は対象外の場合あり)
  • 承継計画を都道府県に提出していることが条件

(3) 猶予の仕組み

納税が猶予される代わりに、後継者と会社は継続要件を満たし続けなければならない。

2. 制度活用のメリット

  1. 相続税・贈与税の負担を大幅軽減
    莫大な税負担を回避でき、会社を潰さずに済む。
  2. 株式を後継者に集中できる
    株式を分散させず、経営権を安定化できる。
  3. 承継準備の後押しになる
    承継計画書を提出することで、後継者育成や計画づくりを早めに進めるきっかけとなる。

3. 制度利用のリスク・注意点

(1) 継続要件の縛り

  • 雇用の8割維持要件(緩和されつつあるが要注意)
  • 後継者が代表を続けなければならない
  • 株式を譲渡・売却できない

(2) 経営環境の変化に対応できない

  • 将来的にM&Aやグループ再編を検討したい場合、制約がネックになる
  • 制度を利用したことで「自由な経営戦略」が阻害されることもある

(3) 途中で要件を満たさなくなった場合

  • 猶予されていた税金が一括課税されるリスク
  • 資金繰りに大打撃を与える可能性

4. CFIO流・事業承継税制の正しい活用法

(1) 制度は「最後の手段」と位置づける

まずは資産管理会社、持株会社、生命保険などのスキームで解決できないかを検討。
それでも税負担が重すぎる場合に税制を活用する。

(2) 10年計画の中で活用を判断

後継者教育・組織承継・資産承継と並行して、税制利用の是非を検討する。

(3) 定期的にモニタリング

制度を使った後も、毎年「要件を満たしているか」を点検。
経営計画やM&A戦略と矛盾がないかを確認する。

5. ケーススタディ①:制度利用で成功したY社

Y社(年商20億円)は、株式評価額が高額で、相続税が数億円にのぼる見込みでした。
事業承継税制を活用し、後継者に株式を一括承継。

  • 猶予制度を使ったことで納税資金の心配がなくなった
  • 後継者は株式を集中保有し、経営権を安定化
  • 承継後も事業は成長を続け、税務要件をクリア

「税制がなければ会社を守れなかった」という典型的な成功例です。

6. ケーススタディ②:制度利用で失敗したZ社

Z社(年商12億円)は、事業承継税制を利用して株式を後継者に移しました。
しかし承継後、事業環境が悪化し、雇用を維持できずに制度要件を満たせなくなりました。

結果:

  • 猶予されていた相続税が一括課税
  • 数億円の資金負担が発生
  • 経営危機に追い込まれる

「制度ありき」で承継を進めた典型的な失敗例です。

まとめ

事業承継税制は強力な制度ですが、正しく理解し、リスクを管理して使うことが前提です。

  • 税負担を大幅に軽減できるが、要件の縛りが大きい
  • 制度利用の可否は「10年計画」の中で判断する
  • 制度を使わない承継スキーム(資産管理会社・持株会社・保険)と比較して最適化する
  • 利用後も定期的なモニタリングが必須

CFIOのSTEP5では、事業承継税制を「魔法の杖」としてではなく、総合承継戦略の中の一つの選択肢として位置づけ、リスクを管理しながら最適な承継を実現します。