事業承継というと、多くの経営者が「株をどう移すか」「相続税をいかに抑えるか」といった“お金の話”に意識を集中させます。
しかし実際に会社を動かしているのは「人」と「組織」です。
株式の名義や税金の処理を済ませても、後継者や組織の準備が整っていなければ、会社は一気に不安定になります。
CFIOの考えでは、社長交代は「人の承継」と「組織の承継」が両輪で進まなければ成功しないという原則があります。
1. なぜ「人」と「組織」の両方が必要か?
(1) 社長は“経営者”であって“オーナー”ではない
株主としての立場はオーナーですが、会社を動かすのは経営者としてのスキルです。
後継者が経営スキルを持たずに社長交代すると、現場は混乱します。
(2) 組織の仕組みがなければ属人的
経営の仕組みが「社長の頭の中」にしかなければ、交代と同時に会社の知識やノウハウが失われます。
(3) 銀行・社員・取引先は“組織力”を見る
次の社長が誰であれ、会社が仕組みで動いているかどうかが信頼の基準になります。
2. 人の承継:後継者教育のポイント
(1) 数字を語れる経営者にする
- 財務諸表を理解できる
- 銀行や投資家に説明できる
- 経営計画を自ら作れる
(2) リーダーシップを体験させる
- 部門責任者を経験
- 幹部会議で発言の機会を与える
- 社外での学び(MBA、セミナー、異業種交流)
(3) 社長の想いを言語化する
「なぜこの会社を経営するのか」「どんな未来を目指すのか」を、言葉と数字で伝えられるようにする。
3. 組織の承継:仕組みで会社を動かす
(1) 経営計画の承継
後継者が経営計画をつくり、幹部と共有する。
(2) 会議体制の承継
MAS監査をベースに、幹部が数字で語る会議を定着させる。
(3) KPIと評価制度の承継
「社長の目」ではなく「数字」で評価できる仕組みを持たせる。
4. 人と組織を同時に承継する進め方(CFIO流)
(1)社長と後継者の二人三脚期間を設ける
3〜5年をかけて後継者を育てながら、組織に権限を分散していく。
(2)後継者に部分的な権限を委譲
まずは部門経営から始め、徐々に全社に広げる。
(3)組織に仕組みを定着させる
幹部会議、部門別損益、経営コックピットを使い、社長不在でも回る体制を整える。
5. ケーススタディ:人の承継だけで失敗したM社
M社(年商12億円)は、創業者の息子に株と社長の椅子を早めに譲りました。
しかし…
- 後継者が数字を理解できず、銀行説明で信用を失う
- 幹部が指示待ちになり、組織が停滞
- 結果的に売上が2年で20%減少
「人」だけを承継し、「組織」の承継を怠った典型例です。
6. ケーススタディ:人と組織を両輪で承継したN社
N社(年商20億円)は、創業者が10年前から後継者教育を開始。
- 幹部会議に同席させ、数字経営を学ばせる
- 部門別損益を導入し、後継者が数字でマネジメント
- 株式は資産管理会社に集約し、経営権を一元化
結果、社長交代後も業績は堅調に伸び、銀行からも「安心して支援できる会社」と評価されています。
まとめ
事業承継を成功させるには、人と組織の承継をセットで行うことが不可欠です。
- 人の承継:後継者教育、リーダーシップ、数字力
- 組織の承継:経営計画、会議体制、KPI・評価制度
- 二人三脚期間を経て、徐々に移行する
CFIOのSTEP5では、後継者を「経営者として育成」し、組織を「仕組みで動く会社」に変えることで、社長交代を“リスク”ではなく“成長のチャンス”に変えます。
