中小企業の社長からよく聞く悩みのひとつに、「売上は上がっているのに、なぜかお金が残らない」というものがあります。
決算書上は黒字なのに資金繰りに苦しむ、銀行からの借入に依存している、賞与や税金の支払いで毎回ヒヤヒヤする…。
この状態を放置すると、どれだけ売上を伸ばしても経営は安定せず、最悪の場合「黒字倒産」に至ってしまう危険があります。
では、なぜ売上があるのにお金が残らないのでしょうか。
その原因と、最初に社長が取り組むべき「財務の仕組み」について解説します。
1. お金が残らない会社の典型パターン
売上があってもお金が残らない会社には、いくつかの共通点があります。
1.利益とキャッシュフローを混同している
決算書の「利益」は必ずしも「現金の残高」とは一致しません。減価償却費や売掛金・買掛金の増減など、会計上の処理と実際の資金繰りにはズレがあります。
2.資金繰り表を作成していない
多くの中小企業は月次の試算表すら活用できておらず、現金の流れを見える化できていません。そのため、税金や借入金の返済が直前になって「資金不足」が発覚します。
3.節税優先での決算対策をしている
節税を優先しすぎて利益を圧縮すると、自己資本比率が下がり、銀行からの信用力を落とします。その結果、本当に必要な時に資金調達ができず、資金ショートを招きます。
4.売上至上主義で経営をしている
「売上を伸ばせば何とかなる」と考える経営は危険です。粗利率が低いまま売上を増やすと、むしろ資金繰りは悪化します。
2.最初に取り組むべき「財務の仕組み」
お金が残らない経営から脱却するためには、次の3つの仕組みを整えることが出発点です。
(1) キャッシュフロー経営の導入
利益ではなく「キャッシュ」を基準に経営を判断します。
具体的には、月次のキャッシュフロー計算書や資金繰り表を作成し、入出金を可視化することです。
ポイントは「先の資金残高」を予測すること。
3ヶ月後・半年後の現金がどれくらい残るかを把握できれば、資金ショートのリスクを事前に回避できます。
(2) 部門別損益の把握
会社全体で利益が出ていても、赤字の部門が足を引っ張っているケースは多々あります。
部門別損益を導入することで「稼いでいる事業」と「赤字事業」を切り分け、資源配分を最適化できます。
(3) 融資戦略の立案
借入は悪ではありません。むしろ成長のための投資や安全運転のためには、計画的な借入が必要です。
重要なのは「どの銀行から、どの種類の融資を、どのタイミングで受けるか」を戦略的に設計することです。
3.CFIOの視点:財務戦略は「資産形成」の第一歩
CFIO(CFO+CIO)のSTEP1では、財務戦略を「資産形成の土台」と位置づけています。
会社にお金が残らなければ、節税も投資も事業承継も実現できません。
- 会計を“未来志向”で活用する予算管理
- 銀行対応を強化し「資金調達力」を高める
- 資産管理会社や投資戦略につなげる前に、まず会社本体の財務を健全化する
これらを徹底することで、会社と経営者個人の両方に「強いキャッシュフロー」が生まれます。
4. 実務に落とし込む3つのステップ
最後に、社長がすぐに取り組める実務ステップを整理します。
1.毎月の資金繰り表を作る
クラウド会計ソフトやエクセルを活用し、最低でも半年先までの入出金を予測する。
2.銀行評価を意識した決算書を作る
節税と融資はトレードオフ。借入を重視するなら、利益をある程度計上して「信用力」を高める。
3.未来会計(予算管理)を導入する
過去会計ではなく未来会計。翌期の売上・利益・資金繰りをシミュレーションし、経営計画に落とし込む。
まとめ
「売上があるのにお金が残らない」という悩みは、多くの中小企業に共通しています。
その原因は、利益とキャッシュの違いを理解していないこと、資金繰りの仕組みがないこと、そして銀行対応を戦略化できていないことにあります。
CFIOのSTEP1では、こうした課題を解決するために「財務の仕組みづくり」を最初のステップとして位置づけています。
お金が残る仕組みを整えれば、次のステージ(STEP2の税務戦略、STEP3の資産運用戦略)へと確実に進めます。
経営は「売上」ではなく「キャッシュ」が命。
まずは財務の土台を固めて、会社の未来を安心して設計できる状態を作りましょう。
